プロローグ
緞帳は下りている。客電が消えると同時ぐらいに、車のクラクション、大勢の人が行き交う音が流れてくる。
静かに緞帳上がる。幕に合せて、街の雑踏フェイドアウト。入れ替わるように鳥の声、犬の鳴き声や子供達の
声が聞こえてくる。
舞台上はホリゾント状態だが、どこかの公園と行った感じを出したい。照明が入ると舞台には数人の老人が
立ち止まっている者、行き過ぎようとしている者、思い思い様々に存在して居る。子供達が祖父母であろう
男女を急かしながら駆け去って行く。追いつこうと歩み寄った三人の男女。
擦れ違った所で、少し年若い男が二人の名前らしきものを呼んで振り返る。呼ばれて女も二人の名を確かめ
るように呼ぶ。最後の男が記憶を手繰り寄せるように振り向き。三人は手を取り合う。
照明を少し落としてフラッシュバックさせる。同時に音楽(意外なぐらい明るいスゥィング系のジャズ)
先程出ていた老人達(アンサンブル)と三人の老人(メイン)のダンスナンバー。
軽快なリズムにお年寄りが乗る面白さを前半に出す。中後半はアンサンブル・メイン共に早変わりして
若かりし頃の姿に戻ってのダンスナンバー。小粋におしゃれに。
曲、ダンス決まる頃に下手側に平台の上にグランドピアノを乗せた物をスタンバイさせたい。
曲はピアノでのブルースに変わっている。ピアノ弾きはピアノの所へ、レディは舞台上に残る。
他はいつの間にか退場している。照明は気怠い感じに薄暗く。
第一場
ピアノ弾きとレディの会話。レディは曲に合わせて口ずさみながら。
(ここでは歌うというより聞き慣れ過ぎてつい口について出て来る感じを出したい)ピアノ弾きに近づく。
きっと毎日繰り返されているであろう二人の話。ピアノ弾きが同じ曲しか演奏しないこと、お酒と生活を
改めればもう少しはましになると、レディは言う。
ピアノ弾きは言う、レディが心配なんかしていないことを、自分をからかって居るよりも大事なことがある
だろうと話す。
日常過ぎて会話につまる。ほんの少しの間。
上手からオーナーが、ボーイを連れて出てくる。大きな声で二人を呼ぶ。
ボーイを二人に紹介する。レディ・ピアノ弾きそれぞれ自己紹介。
各人の生い立ちなんかを手短に台詞で言わせるか、オーナーを入れた四人での掛合いの歌にしてしまうか。
終わって。レディが、でも自分はレディじゃなくクィーンだと高らかに宣言に近い感じに言う。
ボーイは、それなら僕はナイトだと叫ぶ。ドッと言う感じで笑いが起きる。憤慨して拗ねるボーイ。
苦しいと言った三人の表情と、拗ねたボーイの表情を残して暗転。
第二場
照明と音楽同時。アンサンブルの女性を中心にしたナンバーが始まる。少し落とした感じに薄暗く。
その間に客、ウェイター(ボーイふくむ)机と椅子などセットスタンバイ。 曲途中からレディ登場。
照明変わる明るく華やかに。
女の色気と退廃。スゥィングかブルースを使って。
(ボーイや他の男性アンサンブルを巻き込んでも面白いかも)
ダンス終わる頃に一人の紳士が店に入ってくる。オーナーその男を見て動く。ピアノ弾き出る。
二人何か話している。
ダンス終わって。レディや他の女性たちそのまま客の相手をしに散って行く。レディは先程の男に近付く。
男はレディを褒め、この店の事も聞き出そうとする。レディは何かうまい話になりそうだとそれとなく話を
合わせている。オーナーが男に近づいて来る。客に対してこれ以上無いと言う感じの笑顔で。
男は当たりさわりのない話をして立ち去る。
ピアノ弾きは男を追って退場。レディは半ば呆れながら、しかし何か起こりそうだと微笑む。
ボーイは何か良くない感じでピアノ弾きを見送って。暗転。
第三場
カーテン前(中幕・黒)先程の紳士が下手から出てくる。それを追い越すように男がついて出る
(簡単な変装はして居るが、ピアノ弾きである事がわかる)追い越し振り向いて銃を出して撃とうとする。
しかし玉が出ない、お互いに走る一瞬の恐怖と緊張、逃げる紳士、ピアノ弾きは錯乱した中でナイフを
取りだし懐に飛び込み差す。ナイフは紳士の腹に。 声にならないピアノ弾きの叫びを残すように
照明しぼりこんでゆく。
暗転と同時にボーイの明るい弾んだ声が響く。カーテン開く。
第四場
オーナーが次のショーで、ボーイにメインダンサーをやってみる気がないかと言う話を持って来たのだ。
ボーイにもちろん断る理由などある筈も無く、喜びの余り少し有頂天になっていた。
オーナーに選曲の事やどんなショーナンバーにしたいかと聞かれながら、彼の幻想とも現実とも取れるような、
ショーシーンになる。
ボーイがメインなので、できる限り若々しく明るいパワーのあるシーンにしたい。
もちろん相手役はレディである。
曲ダンス決まって、ボーイ・オーナー・レディのみ残って、他退場。
満足感の中でボーイがレディの手を取ろうとしたところで、ピアノ弾きが店に戻ってくる放心して、
しかし何かに極端に怯えながら、レディを求めて彼女に抱きとめられる形で静かに照明おちる。
第五場
スポットライトの中ボーイが一人残っている。(カーテン前)
ピアノ弾きの様子のおかしかった事、それをいつもの事のように抱きとめたレディの行動。
二人が男女の仲だとわかっていたけれど、先程の光景はボーイの心を乱すには十分すぎる光景だった。
ボーイの歌ソロから、レディ・ピアノ弾きも加わっての三重奏にできれば、そこから三人の心の関係を現す
ようなダンスナンバーに、ショーシーンではないので少し重い感じになるかも。
(カーテン開いて。ホリゾント)
曲の最後はフェイドアウトする感じで、ボーイとピアノ弾きのみ残る。(静かにセット戻す)
ピアノ弾きはピアノに向かって居るが弾く気持ちはないようだ、ボーイがためらいがちに訳を聞き出そうとする。
ピアノ弾きは、少し構えた感じになるが微笑んで、ボーイが知る必要なんてないと、何があったかの説明をさける。
ボーイの心の内に強く沸き上がる疎外感。ピアノ弾きは、そのままボーイは今のまま、なんら変わること無く
真っ白な心で夢を見続けて欲しいと笑う。
ピアノ弾きにとっては自分の追い切れなかった夢を彼にたくしたいという気持ちの現れ。
(憧憬)ボーイは、ピアノ弾きの言葉を素直に聞くことができなかった、彼の言葉はボーイにとって侮辱的
であり、屈辱的であり、一人の男としてでなく子供にいって聞かせているような感触を与えた。
擦れ違ってしまった想い。ボーイの急速な変化。照明 フェイドアウト 暗転。
第六場
ペアによる、デュエットダンスを中心にしたナンバー。お色気あり、少しラブシーン的な振りもあればベスト。
しかしあくまでも明るく。(メインはレディ。パートナーはボーイ)
ナンバーの途中でピアノ弾きが下手より出る。
ダンサーの流れを横切る感じで通り過ぎて、上手側のオーナーに近づく、二人何か口論となっていく。
(台詞は無く芝居のみで見せる)どうやら仲違いしてしまったようだ。
ピアノ弾き怒ってと言うより諦め疲れ果てた様子で上手退場。オーナーは腹立たしげに見送る。
曲、ダンス決まる。(明るく力強くハッピーに)
レディがオーナーに近づき、心持ちしなだれかかろうとする。オーナーなだめるように抱き寄せかかるが、
二人を見つめているボーイの視線に気づきレディを追いやって、ボーイに話しかける。
(この時レディ退場させたい)
ボーイにオーナーはレディの事が好きなのかと問う。ボーイは素直に自分の気持ちを認める。
オーナーはしかし彼女にはピアノ弾きがいると少し同情するようにボーイを慰めるような言葉をつなげていく。
(彼としてはボーイの嫉妬心をあおって、自分の本心へと話を持っていきたい)
オーナーの巧みな話術に乗せられて行くボーイ。
ボーイの口からピアノ弾きを良く思っていないことが少し漏れる。
オーナーはそれを逃さずにピアノ弾きに、脅されて居たような話をボーイに聞かせる。
彼は戦争で人を殺して以来、血を見ないと治まらない男になってしまったこと、オーナーのため、
店のためだと言っては殺しを重ねて来たことなどを真実味たっぷりに語って聞かせる。
そして先程再び金の無心に来たが断ったので怒って出ていってしまった、今までの事を全部警察に話すと
言って、ピアノ弾きが勝手にやってきたことだが、警察に話されたらこの店が潰れてしまうそれだけは
避けたいので、ボーイにあの男を殺してくれと言って、懐から拳銃を取り出してボーイに手渡す。
ボーイは一瞬迷いが出るが、オーナーの本当に困っているんだと言うような様子に負けて、拳銃を手に店を
飛び出していく。
ボーイが完全に退場すると、オーナーの勝ち誇ったような高笑い。馬鹿正直な者程利用しやすい、
ピアノ弾きが消えてくれたら、ボーイが変わりの飼い犬になってくれるさと言って、自分は人生の勝利者と
勝ち誇った様子。
レディが静かに戻って来る。オーナーにボーイに何の用事があったのかと聞く。
オーナーは別に邪魔な物を片付けるように頼んだだけだと、話をすげ替えようとする。
レディはオーナーの本性を知って居る。ボーイにピアノ弾きの始末を言いつけたことに気がつく。
オーナーの今までの悪行を並べ立て彼の野心を支えるために、ピアノ弾きは罪を犯してきたんじゃないかと
つめ寄る。
オーナー、だから食べさせて来たし雇ってもやった、恩義は感じてもらっても罰は当たらないが、
ピアノ弾きはもう疲れた、警察に自首して罪を償いもう一度音楽をやってみたいと言ってきた。
一人で罪を被ってくれるなら良いが、オーナーにも来いと言う、嫌だと断ったら店を出ていった。
まずいと思っていたらボーイが居たのであいつなら扱いやすそうなので頼んだまでだと自慢げに話す。
レディ、オーナーの頬を思い切り平手打ち。たじろぐオーナーを尻目にボーイだけは汚してはいけないんだと罵る。
レディそのまま追って出ようとする。引き止めるオーナー少し揉み合う形になったところで銃声、
オーナー倒れる。走り去って行くような足音。
レディしょせん自分のやってきたことが自分にも振り返ってくるんだと虚しそうに、
オーナーの亡骸を見やって微笑んでから。足早に退場する。
(次の場面の関係上難しいかもしれないが銃声はボーイの物とだぶらせたい)
銃声と同時に、レディとオーナーのスポットライトのみの照明に変わる。
(瞬間ボーイと足を打たれたらしいピアノ弾きの姿が浮かび上がる。)
レディの退場に合わせて、店のセットすべて撤去。(ピアノも速やかに)
第七場
沙幕を使いたい。沙幕が透けて幕が上がると、銃を構えたボーイと足を打たれたらしいピアノ弾きの姿が
再び浮かび上がる。(撤去の関係もあるので最初は薄暗く)
命乞いをするでもなく、自分を殺してこいと言ったのは、オーナーかと確かめようとするピアノ弾き。
ボーイは彼をこれ以上苦しめるのは止めてくれと震えながら更に打とうとする。
ピアノ弾きは死ねと言うならそれでも構わない、しかしボーイに罪を犯して欲しくないとその事を強く訴える。
ボーイの真っ白な魂、真っ直ぐに夢を見続ける心に、ピアノ弾きは自分のなくしたものを見出だしたんだと語る。
(真実だからこそボーイを怯えさせる、再び銃声、今度は肩を掠めて行った)
銃声と同時ぐらいにレディが駆け込んで来る。ピアノ弾きを気持ち庇うように立ちながらも、ボーイを落ち
着かせ、オーナーが死んだ事。本当に悪いのはあの男なんだと言って聞かせる。
ボーイは否定しようとするが、レディに抱き寄せられて少し落ち着く
(意外すぎて予測できなかったために、パニックから逃れられたのだ)
レディは自分も悪どい事をしてきた。間違ってたとは思わないが、ボーイの心根だけは汚したくなかったと語る。
綺麗な心で夢を追えれば、それはとても素晴らしい事だと。
ボーイの心の内に静かにレディの想い、ピアノ弾きの想いが染み込んでいく。ボーイ、ピアノ弾きの手を取り
助け起こす。レディも寄って三人手を取る。(プロローグの状態に戻る。位置のみ)
静かにブルースが流れてきて、照明朝日or夕日をイメージした感じで、三人の姿がシルエットになるように暗転。
エピローグ
プロローグの公園に戻っている。様々に自分の時間を過ごす老人達。子供達が駆けて来る。
それを三人が追って出る。最初は声だけでもいい、ゆっくりした足取りで、しかししっかりと歩いて登場してくる。
子供達はそのまま退場していってしまう。
舞台中央で三人があの後どういう人生を歩き、今は幸せに暮らして居るとお互いの生きて来た道を話し合う。
子供達が迎えにやってくる、父や母(息子娘)が待っていること、自分達も、もう待ちくたびれてしまったと
訴えて、祖父母達をせかす。
三人は、もう会う事もないだろうが、幸せに暮らしていることがわかって嬉しかったと別れていく。
照明静かにフェイドアウト。三人の子供達だけ舞台上に残る感じでスポット。子供達の何となく振り返った
表情だけ残して。
緞帳降りる。
幕
|